破産の申立てをするにあたり注意していただくこと
大府法律事務所

□ はじめに
 本記事は、破産の申立てをするにあたり注意していただくことをできる限り分かりやすく記載したものです。★は、破産手続開始決定の申立てをする際に必ずご確認いただく必要があるものです。
 記載は、特に断りがない場合、名古屋地方裁判所の取扱いを載せておりますが、事案毎に判断が異なる場合があります。当然ではありますが、貴方の場合に同じ取扱いを受けることを保証するものではありません。

□ 自己破産とは★
 破産とは、自分の財産・収入を全部充てても、全ての債務を弁済できなくなった場合に、貴方の全財産をお金に換えて、そのお金をすべての債権者に対し公平に分配し、債務を清算する制度です。
 免責とは、その名前のとおり、責任を免れる制度です。裁判所から免責許可決定を受けることにより、借金を返さなくてよくなります(ただし、罰金、税金や社会保険料などは除きます。養育費や婚姻費用なども支払わなくてはなりません。この点は後述します。)。
 破産手続開始決定の後に免責について審理されることとなりますが、あくまでも破産と免責とは別個の制度です。
 破産手続開始決定を受けたのみでは免責は認められてなく、まだ借金を返さなくてよいことにはなっていません。裁判所から免責許可決定を受けてはじめて借金を返さなくてよくなることに注意して下さい。この点は、免責審尋(裁判官との面接)の期日にも、裁判官からよく質問されています。

□ 自己破産での弁護士の役割
 弁護士は、破産手続全般において貴方を代理し、貴方にとって最も有利になるよう努めてまいります。弁護士は、申立書等の様々な必要書類の作成をした上、破産審尋、免責審尋、債権者集会にも代理人として立ち会い、適切にフォローさせていただくことができる上、債権者への対応もほとんど全て弁護士がさせていただきます。
 ただし、弁護士には、裁判所に申し立てるにあたって裁判所に真実を報告する義務があり、裁判所に嘘の報告をすることはできません。虚偽の債権者一覧表や財産目録の提出は後述する免責不許可事由に該当し、後で発覚した場合には免責が取り消される可能性もあり、ご本人様にとってもたいへん不利益な結果を招くことがありえます。

□ 自己破産のメリット
 自己破産は、その後の免責の制度とあわせて、本人の経済的な新しい出発を図るための制度です。自己破産して免責を受けると借金を返さなくてよくなりますので、経済的に立ち直るためには、たいへん有益な制度です。
 また、弁護士に委任すると取立てがなくなります。弁護士に委任して破産の申立てをする場合には、弁護士からの受任通知により、委任後まもなく取立てが止まります。
 自己破産の申立てをしても、破産手続開始決定後の給料は原則としてすべて自分で自由に使えます。また、破産者になっても、戸籍や住民票にその旨が記載されることはなく、選挙権・被選挙権を失うこともありません。通常は近所の人や勤め先に知られません(注意点は後述します。)。

□ 自己破産のデメリット★
 自己破産のデメリットは、次のとおりです。
① 一度免責が確定したら7年間は再び同じ方法で免責を受けることはことはできません。7年が経過している場合であっても、再度の自己破産の際のチェックは相当厳しくなります。
② 貴方が破産した事実が信用情報機関の信用情報に登録されますので、5年から10年の間は銀行から借入できなくなり、ローンを組んだり、クレジットカードを作れなくなります。また、分割払いで商品を購入することが難しくなります。例えば、スマートフォンの機種を分割払いで購入することも難しくなります。
③ 資産価値の大きい財産(不動産・株)は処分されます。ただ、日常生活に必要なテレビや冷蔵庫といった家財道具などは自由に使うことができます。自己破産をした場合に手放さなければならない財産は、不動産や株などといった資産価値の大きい財産だけです。生命保険などでも、解約返戻金額が大きいものは、処分される可能性があります。
 現金や預貯金は一定の額まででしたら自分のものとして残すことが可能で、多くの場合は処分されることはありません。
 もっとも、ご自宅が持ち家の場合には、いずれ処分されることになってしまいますので、新しくお住まいを探していただく必要が出てきます。この点は後述させていただきます。
④ 保証人(連帯保証人)は債務を支払う必要があります。債務者が免責を受けたとしても、その債権の保証人となっている方まで免責されるわけではありません。債権者は保証人に請求することになりますので、最悪の場合には、保証人も自己破産や任意整理などの方法をとらざるを得ない可能性もあります。保証人がいる債務のみを弁済することも許されません。
⑤ 資格や職業が制限されます。自己破産をすると、特定の資格、職業に就くことができなくなってしまいます。免責を受けることで制限がなくなりますが、破産手続開始から免責決定までの数か月間、資格制限に該当する職業で働いていた場合には、一時的に職を失うことになってしまいます。どうしても困る場合は破産ではなく、個人再生等の手続を検討しなくてはなりません。

□ 免責不許可事由について★
1 法律上、破産手続と免責とは別個の制度であり、破産をしても免責を許可されない場合には借金は返さなくてもよいことにはなりません。
 免責は、誠実な債務者の方が経済的に更生するための制度ですから、不真面目な債務者であると認定される場合には、免責が許可されません。法律は次に述べる免責不許可事由を定めています。

2 免責不許可事由には具体的には次の述べるものがあります。
・債権者を害する目的がある場合。
・特定の債権者に特別の利益を与える目的で担保を提供したり、弁済期前に弁済するなどした場合。
・債権者の不利益になるように破産財団(破産手続開始決定時に破産者が持っていた財産)を隠したり、わざと壊したり処分した場合。
・浪費やギャンブルのために借金したり、著しく財産を減少させたり、または過大な債務を負担した場合。
・株や先物投資のためにした借金。
・返済不能であることが明らかな事を隠してした借金。
・支払能力がないのに、信用取引により財産を得、著しく不利な条件でこれを処分した場合。
・クレジットで商品を買い、すぐにお金に換えてしまった場合。
・借金の額などについて嘘の申告をした場合。
・裁判所(裁判官)や破産管財人に嘘をついた場合。
・免責申立の前7年以内に免責決定を受けている場合。
・破産法の定める破産者の義務に違反した場合。
・免責審尋期日に無断で欠席、出席しても陳述を拒んだ場合。

3 免責不許可事由があっても必ず免責されないわけではありません。免責不許可事由がある場合でも、裁判所の裁量で免責される場合がほとんどです(裁量免責と言います。)。例えば、少しぐらいの無駄遣いやギャンブルをしていても、多くの場合、裁判所は免責してくれます。さらに、免責不許可事由がある場合でも、裁判所は本人の誠実さを知るために破産管財人を選任して免責を許可できるかどうかを調査させます。破産管財人に誠実な人であることが認められると、破産管財人は「免責相当」という意見を書いてくれます。この「免責相当」という意見があれば、ほとんどの場合で免責が許可されます。免責許可決定が確定すれば、借金を返さなくてよくなります。

4 ただし、免責は、すべての債務の支払義務を免除するものではありません。税金や社会保険料、故意または重過失で人を死傷させてしまったような場合の損害賠償債務、養育費や婚姻費用などは、そもそも免責の対象とはなりません(「非免責債権」と言います。)。

□ 同時廃止事件・破産管財事件★
1 破産手続には、破産管財人が選任される場合(管財事件)と破産管財人が選任されない場合(同時廃止事件)があります。
 破産管財人とは、破産者の財産を調査し、換価の必要がある財産を換価し、債権者への公平な配当を行う者です。通常は、裁判所が候補者として登録されている弁護士を破産管財人に選任します(誰が選任されるかは分かりません。)。破産管財人が選任される破産手続のことを破産管財事件といいます。破産管財人が選任される破産手続が正式な破産手続です。
 これに対し、破産手続に必要な費用を捻出できるだけの財産がない場合には、それ以上破産手続を進めても意味がありません。
 このような場合には、はじめから破産管財人を選任しないで破産手続開始決定と同時に破産手続を終了してしまいます。このように破産管財人が選任されない破産手続のことを同時廃止事件といいます。同時廃止事件の場合は、財産の換価や債権者への配当が原則として行われませんので、手続が迅速に進み、申立てから約3か月程度で免責許可決定が得られます。破産事件のうちの約8割が同時廃止事件として処理されています。

2 他方、管財事件となる場合、弁護士費用とは別に、個人の破産事件であっても少なくとも21万5499円の予納金(後に破産管財人の報酬となります。事案により金額は異なります。)を裁判所に納めることが必要になります。そのため、可能な限り同時廃止事件として処理されるようにしたいものです。
 ただ、会社などの法人については同時廃止は認められていません。また、法人の代表者や個人事業者についても、同時廃止は認められませんので、予めご了承下さい。この場合には、予納金の調達方法を検討していただく必要がございます。

3 次項では同時廃止事件と管財事件の振り分けの基準についてご説明させていただきます。

□ 同時廃止事件と管財事件との振り分けの基準
1 上で述べたことのおさらいですが、破産手続には、同時廃止事件と破産管財
  事件があります。

同時廃止事件→ 破産管財人が選任されない

 ・裁判所の費用(官報公告予納金)は予納金1万1859円
 ・手続が迅速に進む(申立後約3か月で免責許可決定が出る。)

破産管財事件→破産管財人が選任される

 ・弁護士費用とは別に裁判所に納める予納金として最低でも21万5499円が必要となる

 ・手続に時間がかかることもある。

2 同時廃止事件(破産管財人が選任されない)となるか、破産管財事件(破産管財人が選任される)となるかについては、裁判所が一応の基準を作成していますが、最終的には裁判官の判断で決まることになります。次のどれかにあてはまる方の破産事件の場合には、管財事件となる可能性が高くなります。ただ、これらにあてはまるからといって、絶対に管財事件となる訳ではありません。
 ① 個人事業主の方(過去に個人事業主であった方)、法人の代表者の方
 ② 現金及び普通預貯金の合計が50万円以上となった場合
 ③ 自己破産を決めた後や決める直前の弁済(返済)や財産の処分がある方
 ④ 不動産をお持ちの方(かつて不動産をお持ちだった方)
 ⑤ ギャンブル等の免責不許可事由に該当する事情があり、しかも、その程度が著しい場合や複数の免責不許可事由に該当する場合
 ⑥ 破産申立ての直前に借入がある場合
 ⑦ (7年間が経過していても)過去に自己破産をされている方
 ⑧ 20万円以上となる財産(保険解約返戻金、積立金等)がある場合
 ⑨ 現在の勤務先の退職金が160万円以上ある場合
 ⑩ 初年度登録から7年以内、または、新車時のメーカー希望小売価格が300万円以上の残債のない車をお持ちの方

3 上記に当てはまる場合であっても、一定の要件を満たす場合には、同時廃止事件(破産管財人が選任されない破産事件)にすることができる場合がありますので、詳しくは弁護士にご相談下さい。

□ 破産管財人が選任される場合に特有のデメリット
 破産管財人が選任された場合には、破産者に宛てられた郵便物などは、原則として事件終結まで(破産手続の終結から1か月程度かかることが多いようです。)、破産管財人にすべて転送され、破産管財人に内容をチェックされます(封筒は開封されます)。
 これは財産の隠匿などのチェックのためです。破産管財人は、固定資産税や自動車税などの請求、保険会社や銀行からの通知などから、申立の際の財産目録に記載されている財産に漏れが無いかのチェックをするのです。請求書などから債権者一覧に漏れていた債権者が見つかる場合もあります。
 転送郵便物は、破産管財人のチェックが終われば返してもらえます。通常は、ご本人様に管財人の事務所まで取りに行っていただくか、管財人から郵送されることが多いです(当たり前ですが、破産管財人からの郵便物は破産管財人には転送されません。)。急ぎの郵便がある場合には、破産管財人に事前に申出をしておけば、すぐにチェックをして連絡をしてもらえます。
 なお、当方から破産管財人に事前に封筒や切手などをお預けして破産管財人に使っていただくこともあります。

□ 家族や勤務先に知られずに破産申立てをしたい方へ
1 家族に知られずに破産の申立てをし免責まで受けることはできることもありますが、事実上、若しくは、法律上できない場合もあります。
  例えば、家族から借入がある場合には当該ご家族を債権者一覧表に載せる必要があり、その場合は、裁判所からの破産の通知が当該ご家族宛に届くことになりますので、隠すことは絶対に不可能です。また、家族が保証人になっているケースも同じです。保証人は債権者一覧表に載せる必要があります。
  その上、ご本人が免責許可の決定を受けたとしても、そのことは保証人には何の影響もありませんので、債権者は今度は保証人に取立てを行うようになりますので、やはり隠し通すことは絶対にできません。
  また、自己破産を申立てる際に、裁判所から同居のご家族の収入を証明する書類(給与明細や源泉徴収票など)や家の賃貸借契約書等の提出を求められることがありますので、この場合は家族の協力が不可欠になり、隠し通すことが難しい場合もあります。
  そもそもご家族に相談できなかったことが原因で破産をしなくてはならない状況まで追い込まれてしまった方もいらっしゃると思いますので、ご家族にも正直に相談して最善の選択をする方が将来のためにもよいかもしれません。
2 他方、勤務先に知られないまま破産の申立てをすることは可能なことが多いとは思います。もっとも、就業状況に関する資料(退職金の見込み額の判るものや社内積立てなどの資料)の準備が必要になりますので、不審がられてしまい破産の申立てがばれてしまった方もみえます(もっとも、会社から破産の申立てを理由とした不利益な扱いはされないことが多いとは思いますし、不利益な扱いをすることは法律上許されない可能性が高いです。)。
  なお、会社や組合から借金をしている場合には、やはり隠すことはできません。会社や組合であっても債権者一覧表に載せる必要があるからです。この点は後述させていただきます。

□ 弁護士費用の支払について法テラスをご利用される(予定の)方へ★
1 法テラスのご利用には所定の審査があり、収入等が基準を満たさない場合にはご利用できません(通常のクレジット等の審査と違い、収入が高いと利用できません。ご家族の人数などにより基準が異なります。別途、リーフレットでご確認下さい。)。法テラスのご利用を希望されても、法テラスの審査を通らなかった場合には、当事務所所定の弁護士費用(同時廃止事案で30万円+消費税)のお支払をいただくことになりますので御注意下さい(弁護士費用の分割払は可能です。)。
  法テラスをご利用される場合には、当事務所を経由して法テラスへの申込みを行います。法テラスの審査のために必要ですので、
  ・援助申込書法テラスの書式
  ・収入を示す資料(給与明細や源泉徴収票など)
  ・住民票(世帯全員・本籍等の省略のないもの)
  ・法律扶助償還金の用紙
・口座の通帳、キャッシュカードのコピー
 のご提出は、お早めにお願い申し上げます。
2 通常は、書面審査で法テラスの審査を受けることが可能ですが、問題のあるケース(財産がある場合、免責不許可事由がある場合や2度目の破産など)では、「対面審査」となることがあります。
3 法テラスへの償還金額は、月に5000円の支払を選択できる場合があります(通常は1万円です。)。5000円ずつの償還を希望される場合はお申し付け下さい。
4 予納金(同時廃止の場合は官報公告予納金1万1859円、管財事件の場合は最低21万5499円)は、法テラスの法律扶助の立替金には含まれませんので、破産手続開始決定前に、当事務所に、直接、現金でお支払いただく必要がございます。
5 生活保護を受給されている方は法テラスへの償還が猶予され、事件終了時にも生活保護を受給中の場合は償還が免除される場合もありますので、弁護士にご相談下さい。破産手続開始決定の際に、生活保護を受給されていても、事件終了時に生活保護の受給が打ち切られている場合は、免除になりませんので、ご注意下さい。

□ 不動産について(★ご自宅が持ち家の方のみお読み下さい。)
1 貴方が破産の申立てをする場合、ご自宅が貴方の持ち家(所有不動産)の場合には、残念ながらご自宅を残すことはできません。
 この場合、ご自宅の売却の手順として、次の①から③の3つの選択肢があると思われますが、法律上、最も適切なのが③であることは間違いありません。
① 貴方がご自身で不動産業者に依頼しご自宅を売却し、住宅ローンの清算をした上、その後に破産手続開始決定の申立てをすること
→ (メリット)引越代(30万円程度が上限)が認められる場合がある
→ (デメリット)売却の状況によっては早く自宅を退去する必要がある
→ (デメリット)契約手続は自分がしなくてはならない
→ (デメリット)後で売却の内容が問題になる可能性もある
→ (デメリット)破産手続開始決定が遅くなり、それまでに財産を取得した場合、その財産を残せない可能性がある。
② 銀行等から競売の申立てによって、ご自宅が競売されるのを待った上、破産手続開始決定の申立てをする
→ (デメリット)競売手続が終わり破産手続開始決定の申立てをするまで半年から1年ほどかかる(競売手続が始まっていない場合、もっと時間がかかることになる。)。
→ (デメリット)近所の人やその他第三者に知られてしまう可能性がある
→ (デメリット)売却金額が市場価格より低い金額になる可能性がある
→ (メリット)競売手続の間は自宅に住み続けられるというメリットがある。通常は、その間の住宅ローンの支払はしないから、結果的にその間の住居費がかからない。
③ ご自宅の売却は後回しにし、先に破産手続開始決定の申立てをし、裁判所から選任された破産管財人がご自宅の売却手続をする。
  → (メリット)法律上は最も好ましい。
→ (メリット)最も早く破産手続が終わる可能性が高い上、問題も生じにくい。
→ (デメリット)早く自宅を退去する必要がある。
→ (デメリット)(管財事件となることから)破産手続の予納金(20万円から40万円程度)が必要となり、引越代も出ない。
 ご自宅を売却した結果、債務が減り支払が可能となるのでしたら、そもそも破産の必要はありません。
 ご自宅を売却しても自己破産をせざるを得ない場合には、上の①から③の中からご選択いただくことになります。法律上最も好ましいのは③ですが、依頼者の方にとっては、どれも一長一短かもしれません。
2 ①の場合には、当事務所から知り合いの不動産業者をご紹介させていただくことができる場合もありますが、売却のための不動産業者の選定は、最終的には、ご本人様の責任でしていただくことになります。ご紹介させていただく不動産業者は当事務所と特別な関係にはある訳ではありません。近時、裁判所は売却価格の相当性について強い関心を持つ傾向があり、後に、売却価格の相当性が問題になる可能性があります。
3 どうしてもご自宅(持ち家)を手放したくない場合には、破産以外の手続(任意整理や個人再生)を検討せざるを得ません。ご自宅を残すために個人再生手続が有効なケースがありますので、ご紹介させていただきます。もっとも、自宅を残すための要件は少し複雑です。
 個人再生手続とは、自分の財産・収入を全部充てても、全ての債務を弁済できなくなるおそれのある場合に、総債務額の一部を分割返済するという再生計画を裁判所に提出して認可を受けたうえで、その計画とおりに分割返済を行えば残債務は支払義務を免除されるという制度です。破産・免責手続と違って資格制限や免責についての制限はありませんし、住宅ローンがある場合でも住宅を手放すことなく負債の整理が可能です(ただし、住宅ローン以外の債務について自宅に抵当権等が付けられていた場合は除きます)。ただし、この手続きを選択するにあたっては、定期的な収入が見込める、あるいは給与その他これに準ずるような定期的収入を過去2年間にわたって受領しているなど、収入に関する要件が必要となります。また、返済は原則として3年間の分割払いとなっています。なお、総債務額が5000万円を超える場合にはこの手続は利用できません。返済額については最低基準額が定められており、原則として債務総額の5分の1(最低100万円、最高500万円)ですが、資産状況や年収によってはこれ以上の金額を弁済しなくてはいけない場合があります。具体的目安については弁護士にお尋ね下さい。

□ 退職金について(退職金がある方のみお読み下さい。)
 退職金がある場合、退職金の評価額は、原則として、現在退職したら支給される額の8分の1の金額として評価することとされています(退職までの年数によっては4分の1の金額として評価される場合もあります。)。
 例えば、退職まで期間がある場合で、現在、退職したら120万円の退職金がある場合には、退職金の評価額は15万円となります。
 ただし、160万円以上の退職金がある場合には、評価額が20万円以上になりますので相当額の積立てが必要となる取扱いがされています。

□ 自動車について(自動車がある方のみお読み下さい。)
 自動車は、メーカーが発表している車両本体価格(購入価格ではありません)が300万円以下の国産車で、初年度登録から7年が経過しているものでしたら問題になることは少ないです。
 ただ、この条件を満たさない場合は、中古車販売業者で査定書をお取りいただく必要があります。そして、自動車の査定価格が30万円以上の場合(若しくは、その他の財産とあわせて総財産が40万円以上となる場合)に、自動車を手放したくない場合には、査定書の金額を積み立てていただくことになる可能性が高いです。
 ただし、所有権留保がある場合(つまり、自動車の残債がある場合)には、債権者に引き上げられてしまうことから、自動車を残すことは原則としてできません。
 所有権留保がある場合(つまり、自動車の残債がある場合)に、どうしても自動車を残したいという希望をお持ちの場合、例えば、親族等の協力者がいるならば、残ローンを支払ってもらって当該所有権留保を解除してもらい、その自動車の所有権がその親族に移転した後にその人の了解を得て引き続き使用する扱いが可能な場合もあります。しかし、この方法は、親族等の協力者がいない場合には使えませんので、残念ながら、所有権留保付きの自動車(自動車の残債がある自動車)を残すことは困難なことが多いです。詳しくは弁護士にご相談下さい。

□ 破産手続開始決定の申立てをする際に絶対にしてはいけないこと★
1 自己破産をすることを決めた後には、絶対に返済をしてはいけません。これは、返済の相手が個人であるか、貸金業者であるかは問いません。
  破産手続においては、全ての債権者を平等に取り扱わなくてはなりません。不義理をしたくない一部の債権者(特にご親族やご友人など)だけは債権者一覧表には載せてもらいたくないし、受任通知も出して欲しくない、というご要望をいただくことがありますが、これにはお応えすることができません。虚偽の債権者一覧表の提出は免責不許可事由に該当します。
  自己破産をすることを決めた後(決める直前)に、一部の債権者(特にご親族やご友人など)に弁済した場合、この弁済は不公平な弁済にあたり、破産手続を進めていく上で問題となることが多いです(破産手続が進められなくなる訳ではありません。もし該当する場合には対処方法を検討させていただくことになります。)。自己破産をすることを決めた後には絶対に返済をしてはいけないことはよく知っておいて下さい。
2 これと関連し、銀行口座から借金の引き落としがされている場合には、銀行に行って預金残高をゼロにしてください。そうしないと、その貸主だけに返済が続いてしまうことになりますし、支払をした分だけ損することになります。
3 会社の給与から天引きされている貸付金などがありましたら、これについても返済を止めていただく必要があります。どうしても会社に破産の申立ての事実を知られたくない場合もあるかと存じますが、これは難しい場合もあります。
 どうしても会社に破産の申立ての事実を知られたくない場合、返済を続けた上で完済後に破産の申立てをする(これにより債権者一覧表への登載は免れます。)という苦渋の選択をすることになるかもしれません(本来は、適切なやり方ではなく、当事務所からオススメするものではありません。)。
 ただ、一部の債権者である会社への返済は偏頗弁済に該当し、一定のペナルティがある可能性が高いことや、その後の調査などから会社に知られてしまう可能性があることは予めご了承下さい。
4 破産をすることを決めた後(決める直前)に財産の処分をすることも問題になることが多いです。今後、財産処分の必要性がある場合には、必ず事前に弁護士に相談して下さい。
 破産をすることを決める直前の財産処分がある場合には、処分時期や内容、使い道などの確認をさせていただきます。特に問題にならないことも多いと思いますが、ケースバイケースです。
5 陳述書・財産目録・債権者一覧表に虚偽の記載をした場合、免責不許可事由に該当しますので、絶対に嘘を書いてはいけません。逆に、過去に少しぐらい「免責不許可事由」にあたることをしてしまっていても、裁判所に嘘をつかなければ、ほとんどの場合は免責されています。
6 財産目録に記載しなくてはならない財産(預金口座の開設・生命保険の契約・自動車など)に変更がある場合には、事前に弁護士に相談して下さい。

□ 今後の手続の流れ★
1 破産手続開始決定の申立てを受任した場合、当事務所から各債権者に対し、受任通知を送付し、貴方の債務に関する資料の提出を求めます。概ね約2か月程度で債務に関する資料は取り揃えられます。

2 ご本人様にも資料の収集や作成を多数お願いすることになります。ご本人様の資料の収集や作成が遅れますと、破産手続開始決定の申立てができませんので、ご協力をお願いします。特別の事情がない場合、概ね3~4か月程度で破産手続開始決定の申立て(裁判所へ書類を提出すること)をすることができることが多いです。ただ、事件の内容によって申立てまでの期間が大きく変わりますので予めご了承下さい。次の弁護士との打ち合わせの予定が入っていない場合は、お手数をお掛けして恐縮ですが、お早めにご予約をお取りいただくようお願い申し上げます。

3 貴方の申し立てる破産事件が同時廃止事件であり、特別な問題がない場合には、書面審理のみで破産手続開始決定がなされることになります。この場合、破産手続開始決定から約2か月後に免責審尋期日が行われます(注)。裁判所に出頭していただく日は、決まり次第、速やかにご連絡を差し上げますので、必ずご確認の上、絶対に出頭していただくようお願いします。通常、裁判所に出頭していただく1~2週間程前に当事務所において免責審尋期日に向けての打ち合わせをさせていただきます。
(注)
 現在、名古屋地方裁判所本庁において、免責審尋期日が実施されてなく、書面の提出のみとなっています。

4 同時廃止事件として申し立てたが、裁判所の判断により管財事件とされた場合、破産手続開始決定の申立ての日から6か月以内に予納金として少なくとも21万5499円の積立てをしていただく必要があります。
  生活保護を受給中の場合は、予納金21万5499円についても法テラスの援助を受けることができる可能性があります。

5 破産管財事件の場合には、破産手続開始決定と同時に破産管財人が選任されます。破産管財人は弁護士の中から選任されますが、どの弁護士が選任されるかは分かりません。破産手続開始決定の後、予定を調整の上、破産管財人に選任された弁護士の事務所に破産管財人との面談のため伺うことになります。その後は、破産管財人が調査や換価業務を行います。
 破産手続開始決定の際に定められた債権者集会の期日には必ず出席していただく必要があります。1回目の債権者集会で終わることもあれば、何回も期日が開かれることもあります。債権者集会の回数は、破産管財人の調査や換価業務の進捗次第ですが、長くても1年以内には終結するものがほとんどです。
以上